ストーノウェイ(Stornoway)市内案内
ルイス島を訪れる人がまず通るのがここストーノウェイ。ストーノウェイはルイス島最大の,というかほぼ唯一の街(正確には「自由都市:Burgh」)です。人口は1万人弱,お城や大学(Lews Castle College:専門学校的な)もあります。
1844年,マンダリンオリエンタルホテルでおなじみのジャーディン・マセソン社の創業者,ジェームズ・マセソン(James Matheson)が,アヘン貿易で大もうけして,この島をまるごと買い取って,Lews Castle(LewisじゃなくてLewsなのかの理由は知りません)を建てるなど,あれこれ島を整備して死んだ後,石鹸のラックスでおなじみのユニリーバの創業者にして「ソープ男爵」として知られるウィリアム・リーバヒューム(Lord Leverhulme)が,大儲けして引退後,1917年に,いっちょここに水産・製氷の街でも作ってみるか,とまた島ごと買い取ったのですが,戦争とかであれこれ上手くいかなくなっちゃって,結局,この街は1923年にStornoway Trustなる団体(ナショナル・トラストのストーノウェイ版のような)を作ってまるごと寄付しちゃったそうです。なので,今もこの街はStornoway Trustが持っています。
町は歩いても小1時間で周れる小ぢんまりしたものですが,小綺麗な商店もいくつかあって,田舎町然とした雰囲気はなかなかよろしいんじゃないでしょうか。かつては泥酔者の町として知られてたようですが。。。(スコットランドの街はどこもそうだ)
駐車
街に着いたらまず車を停めねばならぬ。島内は基本的にどこでも適当に車を停めるスペースがありますが,さすがに市街地ではそうもいきません。路肩に黄色い線が引いてあるところは全部駐車可ですが,1時間までです。みなさん隙間あらばさっと上手に駐車しますが,アメリカ仕込みの私の運転テクでは,こんな狭いところに縦列する気はおきません。
無料駐車場は,フェリーターミナル横,Cromwell Street沿い一帯,その先のインフォメーションセンター奥にあるのでそちらが便利です。ただしインフォメーションセンター奥の方は,手前は有料(チケットをマシンで買う)なので注意。
観光案内所
一応,観光案内所があります。込み入った相談でもない限り,あまり行く必要はないでしょう。
an Lanntair Art Center
街の中心にあるひときわ目立つ新しいモダンな建物がアンラウンター・アートセンター。地元のCD・書籍や工芸品の売店が入り口にあり,島関連の作品を展示するギャラリー(入場無料)や,カフェ,映画館,そして主に地元の人向けのホールとカルチャーセンターっぽい部屋があります。
とりあえずここに行っとけば,この島の,手工芸品各店の代表的なアイテムがそろっているので,お気に入りの店をみつけられる感じ。
お店
コミュニティ・ストアと手工芸品屋を除いては,ほぼすべての店がこの街に集約されています。
なお,当然のようにどこも日曜日はお休みです。
肉屋(ブラック・プディング)
Stornowayの名を全英に轟かせているのが,このBlack Pudding。ブラック・プディングとは,直径10cmくらいのいわゆる血のソーセージなんですが,そんなにしょっぱくもなく,いい臭みで,ひたすら旨いです。これをフライパンで真っ黒に焼いたのが朝ごはんの定番。1切単位でも売ってて,数十円です。最近は,島のスーパーなどでも売っています。
このストーノウェイのブラックプディングはべらぼうに旨いので,このごろストーノウェイ産じゃないのに「ストーノウェイのブラック・プディング」を称する似非商品があまりに多いそうです。そこで島の4店のみに呼称使用が規制されるそうな(参考:ストーノウェイ・ブラックプディング・キャンペーン・サイト)。実際,本土で食べるブラックプディングはレベルが数段落ちるので,これを食べたきゃ,島まで行くしかない。
その本場の本物のStornoway Black Puddingを製造販売する4店が以下。
- Charles Macleod
- W J Macdonald
- Macleod and Macleod
- Alex France & Sons
4店それぞれ,本家,元祖,至高,究極などとそれぞれこだわりがあるようですが,食べた感じではあまり違いはないようで,いずれも評判通り美味しい。違うといえば,店の雰囲気くらいで,ただの肉屋っぽかったり,おしゃれな感じになってたり。
いずれの肉屋も,ブラックプディングに限らず,羊も牛も豚も鶏も,安くて良いスコットランドの肉が手に入リます。内蔵類,お総菜もおいしいです。ショーウィンドウの見た目もきれい。
魚屋:Fishermens' Co-operative Harbour Seafood
一応漁港もある港町(小型漁船が主)なので,海産物は特産品です。スモークサーモンをはじめとした燻製や,ムール貝に帆立貝や牡蠣,それとロブスター(見たことないけど)が名産のようです。最近では特に貝の評判がいいようで,年々出荷高を増やしています。島のあちこちにあるLochは,冷たくきれいな水のおかげで,本土でも評判のいい高級な養殖ものの産地になっています。
そんな地物の魚はFishermens' Co-opで手に入リます。とりあえずベラボウに安い。そして驚くことにとんでもなく旨い。じゃんじゃん買いましょう。
ムール貝(マセル:mussel)なんて,本当に潮の香りがする。フランスとかで食べるよりずっと旨い。干物類もスバラシイ。サバの干物なんて,脂が超のってて酒が進む進む。おもしろいのは,その合う酒が,なんとウィスキー。Whyte & Mackayを水道水で割ったのなんか,食中酒として最高の組み合わせね。日本で同じことをやっても,全然合わないのに,不思議。
なお,当店は月曜もお休みです。
スコットランドはなんでもかんでも燻製にする印象があるのですが,アウター・ヘブリティーズの燻製は特に良い香りがするように思います。
ルイス島ではないのですがアウター・ヘブリディーズ2大燻製屋が,The Hebridean Smokehouse(North Uist)とLoch Duart Artisan Smokehouse(South Uist)。海産物自体の品質もさることながら,その燻煙にこだわりがあるようで,なかでもウィスキーでおなじみのピートによる燻製は格別です。
イギリスの魚といえば,イングランドのアンモニア臭い干物ばかりが頭にあったので,この美味しさは結構な衝撃でした。築地の魚をゆうに超える。やはり世界中どこでも地物は旨い。
フィッシュ&チップス:Cameron's Chip Shop
さすがに港町だけあって,フィッシュ&チップスも旨い。
ここキャメロンは,老若男女に支持される人気店。地元の児童・学生にも大人気で,お昼時になると,子供であふれます。が,見てるとみんな芋しか買ってません。育ち盛りの子の昼食がチップスだけというのは大丈夫なのでしょうか。
最近,なぜか隣の店舗に移動して,ちょっと小ぎれいになりました。一応,店内に食べることができるスペースがありますが,狭いのでわざわざここで食べなくても良いでしょう。
ちょっとメニューがわかりにくく,「Chips」は文字通りフライドポテトだけ,「Suppers」のFishとかHaggisとかはそれらのフライとフライドポテト,という意味なので,Fish & Chipsください,と頼むと,Fish & Chips & Chipsが出てきます。
もう魚(タラ)自体がおいしい。冷蔵庫からタラの半身を出すや否や,ビールで溶いたであろう衣をくぐらせて5~10分くらいかけて揚げます(5分くらいかかります,と言われるが,たいてい10分くらいかかる)。白身に脂がのっていて,日本で食べるフィッシュ・アンド・チップスとは全く違う食べ物です。ポテトもマッシュされてない串切りの本物のじゃがいも。それをサクッとベチャッと(この感じは説明しがたい)たいへん美味しゅうございます。最後はくっさいモルトビネガーをたっぷりかけてもらいましょう。Take Awayの定番だけあって,揚げ物なのに冷めても美味しいのはすごい。
他に,ハギスもおいしい。スコットランドなんとか賞受賞店の自慢のハギスだそうです。ビールが飲みたくなって仕方がない味です。
惣菜屋:The Good Food Boutique
イギリスといえば不味い食事,という印象は今や昔。ジェイミー・オリバー(Jamie Oliver)に象徴されるように,TVでも美食番組がわんさか放送されていて,食べ物に一定の興味を持つようになってます。というわけで,ここルイス島にもオシャレな惣菜屋があります。その名もThe Good Food Boutique。イタリアっぽい雰囲気で,デリやオリーブオイル,チーズなど,美味しい小洒落た食材を扱っています。
その品質は地元でちょっとしたブランドになっているようで,島のレストランでも「Good Food Butique's Plate」みたいなメニューが堂々と載っていたりします。
写真のGruth Dhuは,ゲール語でBlack Cheeseの意。Crowdieと呼ばれるクリームチーズに,オーツ麦と黒胡椒をまぶしたスコットランド伝統のチーズです。160g,300円。ヨーロッパのチーズの旨さと安さは天国のようだ。
パン屋:MacKinnon's Bakery
イギリスのパンは臭くて硬い(日本で「イギリスパン」というとなぜか山型のフワフワパンを指すが,イギリスでそんなパンは見たことない)。この臭くて硬いパンは,スーパーのベーカリーでも十分美味しいものが手に入るけど,やはり地元のパン屋にはかなわない。このMacKinnonもその一つ(というか,他を知らない)。
普通の1斤のパンから,ロールブレッドやドーナツといったものだけでなく,サンドイッチやバーガーもその場で作って売っているので,お昼時ともなると,行列ができます。
スーパーマーケット:TESCO
テスコはイギリス中ほぼどこにでもあるスーパーストア・チェーン。ここルイス島にももちろんあります。
ただ,いろいろと使いにくいです。まず駐車場が狭くて停めにくい。日本みたい。また,店内も狭い。ドンキくらい狭い。所狭しと商品が並んでいて,なんだかゲンナリする。ただ,安いことは安いようで,いつ行ってもまあまあ混んでいる。
スーパーマーケット:The Co-Operative
イギリス版生協のThe Co-op。市内に2店舗あって,中心街の小さいのと,中心街から少し外れたMacaulay Road沿いの大きいのがあります。島に着いたらまず,この大きいほうに行けば必要なものは何でも揃います。
ぱっと見,ルイス島で一番儲かってる店で,いつも賑わってる。駐車場も停めやすいし,店も広いし,商品も地物もあって良いしで,テスコをしのぐ人気のスーパーです。というか,ルイス島全土にひろがるコミュニティ・ストアの商品群はほぼこのCo-opブランドで,個人商店以外のモノは,もはやCo-opのものしか島内にない,くらいの勢いです。
補足:Coop運動
ところでイギリスでは,産業革命後に急に社会構造が変化した結果,労働を中心とする生活環境は超劣悪化,その結果19世紀半ばに誕生した,労働者の生活改善をめざす「協同組合(Cooperatives)」運動がずっと盛んでして,今なお組合やそれに類する互助組織はそれなりの地位と尊厳を持っているような印象です(実際,The Co-operativeは,協同組合の元祖とされる「ロッチデール先駆者協同組合」[博物館]の直系として今や1兆円規模の巨大グループとなったCo-operative Groupのお店で,その品質とポリシーから,特にスコットランドではテスコやセインズベリーより人気があります。社会・共産という語から,日本ではマルクス・エンゲルスを連想しますが,イギリスに来るとサンシモン&フーリエ,オゥエンをハッキリと連想するほどその思想が根付いてます)。
島の各地にあるコミュニティ・ショップも,そうした一連の流れの中にあるようで,たとえば写真のUig Community Co-operative Shop[スコットランド政府による紹介]は,地域組合Community Retailing Networkの一員として,田舎の生活向上に資するべく運営されてて,2010年にはSURF(Scotland's independent regeneration network:スコットランド辺境開発組合)から,よくやったで賞を受賞しています。お店誕生の模様はYoutubeで。
実際,ちょっと前まではどの村(というか集落)も,ちょっと用事があったらいちいちStornowayまで出なきゃならなかったのが,今はたいていコミュニティショップで用が足るから,相当便利になったといえましょう。