魅惑のカナダ

バンクーバーを中心にカナダに短期(1年くらい)滞在して知った情報を記録してるよ。

政治・社会・歴史

カナダの政治・社会・歴史についてのあれこれを紹介しているよ。

ダチョウの殺処分裁判最高裁判決

歴史の浅い国ならではなのか,先住民との関係の反省なのか,倫理問題は制度問題だという市民感覚があるらしく,エシカル,ウィーガン,フェアトレードといった現代的倫理観もまた,どういった制度設計によって可能なのか,どういった制度史・制度思想史に立脚しているのか,を,よってたかってイジりたおすのが当然みたいだよ。

たとえば,この1年くらいニュースではずーっと,鳥インフル対策での無症状飼いダチョウ数百匹の殺処分の是非がトップを飾りつづけてたけど,こういう「エキゾチック・アニマル」の命を制度がどう扱うかについては,身近な生命の捉え方という倫理の根幹を現体制がどうとらえているのかを明らかにする問題だという観点から注目されてたらしいよ。実際,速攻で最高裁まで争われて,CFIA(カナダ食品調査局)の潜在的公衆衛生リスク評価は,農場の財産権や研究価値の保全に優先することが認められ,殺処分命令が合法とされて一斉銃殺されたよ。

さらに前景となる事件として,これが問題になる半年前(2024年春ごろ)に飼いダチョウが大量に虐待されてるのがバレて,衰弱がひどかったから安楽死させた,っていうのがあったんだって。本来,州法上,人道的安楽死(euthanasia)は,「ペット」に対して飼い主の同意があって行われるものなのに,この時は,飼い主は虐待で逮捕されてるからBC州動物虐待防止協会(SPCA)の判断で実施したよ。ダチョウはexotic livestockつまり「家畜」の一種だから,CFIAが公衆衛生管理等の観点から屠殺・殺処分したならわかるけど,これは一体何が起きたの? SPCAという半官機関が,ダチョウを「ペット」としてみなして,飼い主に代わって勝手に殺戮したことになるのではなくて? うちのペットちゃんも官権力によって勝手に殺されえるのではなくて? ペットどころかいつの日にか私自身がさえ…のような話があったんだって。

こっちのセンスだと,日本のクマ問題も,まずは,こんなになるまで放っておいた獣・山の管理制度やその運用の問題が厳しく追及されることになるだろうね。とはいえ,もっとも低コストなヘア・トラップ法による調査(逆に人里にクマを呼び寄せている疑惑でおなじみ)でも,クマ1頭あたり30万円くらいかかってんだって。

連日ギャングによる殺人

日本では,ミャンマー・カンボジアをアジトとするギャング団が,トクリュウはじめ反社勢力の資金源となっているだけでなく,中国政府につながる勢力よって何らかのかたちでその活動を活発化されているのではないかとの件が,特殊詐欺事件被害額1年で700億円超などとして超問題になっているよね。

このあたりでは,インド系ギャング団が,アボッツフォードやサリーなどで連日発砲・殺人事件を毎日のようにくりかえしていて大問題になっているよ。今年だけでもう40人以上被害にあってて何人も死んでるし,ひところは南アジア系の小商店主や小社長が標的だったみたいだけど,最近はそこらの駅で白人の若者が撃たれたりと,もうわけがわからないよ。

そもそもの話は恐ろしく長い歴史らしいけど,直接は,1984年インドでガンジー首相が,シク教徒はヤバいから皆殺しにちゃえという「ブルースター作戦」をやっちゃって,これにシク教徒がブチ切れ,まずはガンジー暗殺,勢いでパンジャブ州独立をめざす「カリスタン運動」として盛り上がりまくって,さらに農業市場自由化への農民の反対運動と合流し,勢力を拡大。しかし,与党インド人民党(BJP)もモディ首相も,ヒンドゥー至上主義を掲げているだけに欧米からの支持も得られず,ビビりまくってなかなか手が出せない。中でも「ビシュノイ・ギャング」と呼ばれる暗殺集団を率いるローレンス・ビシュノイは,政治家ともつるみながら,獄中から世界の手下に指示を出して大活躍。そんななか,2023年,バンクーバーで,シーク系武装組織とされる「カリスタン・タイガー・フォース」(KTF)のリーダー,ハーディープ・シン・ニジャールが殺害されたんだけど,これが何とインド政府による暗殺団によるものとして,カナダ政府は激おこ。もちろんインドは「うち,何も知らんで」と決め込み,双方,何だとこの野郎と外交官を追放したりしあったり・・・

とそんなゴタゴタしてる間に,ギャング団は闘争手法を先鋭化,一般市民のちょっとした成功者を狙って,恐喝(エクストーション)と暴力で金を巻き上げ,従わないものは射殺する,という犯罪を連日実行しているって,IHIT(Integrated Homicide Investigation Team)は言ってるよ。

怖いよね。

ギャング抗争の構図―Lower Mainlandを中心とした

2軸あるよ。1.はヤクザvsヤクザ,2.はヤクザvs金持ちだよ。

1.ヤク(オピオイドやフェンタニル)の縄張り争い系
a. BIBO(Blood In Blood Out)
・Red Scorpions:古参。多民族構成
・Kang Group:BK(下記)から内部抗争で独立
・UN Gang:古参。RSのライバルだが協力も
・ほかに,Wolfpack,Hells Angels,など
b. Brothers Keepers:新参。パンジャブ系。RSに対抗。
・Independent Soldiers(旧,Sunset Boys):原住民系。
2.パンジャブ独立運動+インド農民運動に便乗した恐喝系
c. Bishnoi Gang:パンジャブ発独立系恐喝集団。
・Khalistan Tiger Force:リーダーがインド政府に暗殺された?
o. 南アジア系プチブル
・Kapil Sharma(カピル・シャルマ):俳優、コメディアン、プロデューサー。所有するカフェ「Kap's Cafe」がたびたび襲撃されている.

Lest We Forget

11月11日は祝日「Remembrance Day」。1918年のWW1の休戦記念日で,我々の未来のために生涯をささげた/る制服の人たちに感謝するべく,午前11時に2分間みんなで黙祷する大英帝国の祝日だよ。その標語「忘れません」がこれ“Lest We Forget”。バスの行き先表示板とかにも掲示されてるね。

John McCrae(1872~1918)の戦争追悼詩,In Flanders Fieldsにちなんで,赤いポピーの花で飾ります。日本の「赤い羽根」みたいに,レジ横とかに募金箱と赤いポピーのピンバッチがおいてあるね。

戦没者追悼でもあるけど,公務で殉職した人とか,軍・警察や消防・救急など,みんなのために国とかの制服で頑張っている人への感謝の日でもあるみたいだけど,式典を見たら実質戦没者追悼と退役軍人さんありがとうの日だったよ。黙祷タイムの11時前から,町が静かになったよ。

日本でこれと同じ活動を探すと,靖国神社玉串奉納,になっちゃうよね。だいぶニュアンスが変わるね。ちなみに,カナダ人兵士は,2度の大戦で約10万人戦死しました。日本人兵士は約200万人戦死しました。

どうでもいいけど,写真のNow You Know Canadaってカナダの豆知識集,半分以上スポーツの話で,あとは政治と戦争の話がちょっとで,とにかくスポーツ大好きな国,っていうことはよくわかったよ。

カナダの軍隊

すべて連邦政府の管轄で,CAF(Canadian Armed Forces)の3軍に集約されているよ。赤いジャケットでおなじみの「Canadian Rangers」は,ど田舎山林で国家権力を内外に見せつけることで辺縁部の維持安定を図る特殊な形態の部隊だけど,これも陸軍予備役の一部とされているよ。公式式典でもインディアン語で挨拶するなどの印象から,原住民部隊だと思われてるけど,誤解だよ。

軍以外には,沿岸警備隊(CCG:Canadian Coast Guard)や,騎馬警察(RCMP:Royal Canadian Mounted Police)が連邦管轄組織だけど,これらは軍ではないよ。

略語だらけでわけがわからん。

テリー・フォックス・ラン

Terry Fox(1958~1981)はカナダの英雄中の英雄だよ(まとめ記事)。

18歳で骨肉腫になって義足になったけど,同じく闘病してる子どもたちを見て,希望になりたいとカナダ横断希望マラソンをはじめて,毎日毎日42km走って,5,300km走ったところで夭逝したよ。

今も毎年9月にガン撲滅チャリティで,テリーフォックスランというチャリティイベントが大々的に行われているよ。

カナダ人にとっての正義・良さを体現した人物だね。5ドル紙幣の肖像になるらしい。

アメリカとの違い

すぐそこのアメリカとは違うってとこを,反トランプや,Buy Canadian運動など,強烈に主張するカナダ。

もともとアメリカは,農業植民で土地を面的に制服していった獰猛な歴史を持つ一方,カナダは,原住民との交易で儲けようとしてきたおとなしい歴史なので,気風がまるで違っているのもうなづけるね。

カナダの同化政策

ブチ殺しまくったり,強制収容したり,めちゃくちゃやってきたのに,88年の多文化主義法はじめ今や多文化共存バリバリなのは,なぜなのかしら。

英仏二文化主義が源流にある上に,移民の民族居留地がモザイク状に発展したため,同化より「多様性の中の調和」による発展を求める雰囲気になって,さらに60年代の移民ポイント制導入によって国籍・人種云々より国の未来に寄与できる人を移民としたことで「移民こそ国の未来」観が定着したという感じかしら。

以下,闘争史2例。

日系人

1880sより和歌山からを中心に移住始まる。漁業・造船・缶詰等水産業に従事。滋賀の水害やらもあって,1890sより契約移民(鉄道保線工,炭鉱夫)始まる。07年移民に対しパウエル暴動,レミュー協定で移民制限へ。

ほとんどはBC州居住。開戦と同時に,漁船押収,指導者層逮捕,新聞停止,学校閉鎖を実施,42年からへースティングス・パークの畜舎へ集め,がんばり組など反抗空しく家族を離して収容所へ強制移動・重労働。43年から財産売却処分。戦後,追放し市民権剥奪も,49年に帰BCを許可。以後40年NAJCはじめいろいろ闘って,88年にリドレス(戦後補償)合意で賠償とマルルーニー首相の謝罪。22年にはBC州がJCに1億ドル補償。

現在の「カナダ人とはだれか概念」の形成に大きな影響を与えただろう歴史。詳しくは日系センター(バーナビー)で。

原住民

18Cの欧州人到達以来,入植者はカトリック的発見の教理に基づく「無主地(Terra nullius)の法理」による土地所有権を主張した一方で,1763年宣言はじめ条約締結による合意形成が所有権含めあったが,19Cになると,漸進的文明化法や,ポトラッチ禁止などのインディアン法改正など1867年建国時より植民地主義にヤられた。

寄宿学校

原住民とその文化消滅を図るべく寄宿学校制度を政府・教会で企図,96年まで約120年実施。50s結核で大量死。15万人収容6,000人死亡。70sより教会が反省・謝罪,1998年政府謝罪,2008年首相謝罪,2018年UBC謝罪,2021年オレンジシャツデー祝日に,22年教皇フランシスコ謝罪,以来10兆円規模の補償が続いているように,ガチのガチで反省して未来を拓こうとしているのがわかる。他方,イギリス王室は謝罪しない。

オレンジシャツの日

9月30日:National Day for Truth and Reconciliation

この日は,寄宿学校の歴史を反省し追悼する祝日で,先住民が学校制度で奪われたものを思いすべての子どもが大切だということを記念してるよ。学校でもオレンジ色のシャツをみんなで着るよ。

日本のうちなんちゅやアイヌに対する態度と全然違うね。このくらい徹底的にやらないと,そもそも何が問題なのかすら普通理解できないよね。

いや,このくらい徹底的にやっても,否認主義(Denialism)が出てくるのが問題になってて,ジェノサイドしようとしたわけではない,その意図を法的には証明できない,ジェノサイドではなく同化政策でしかない,悪いことばかりではなかった,のような主張がされるらしい。

子育て支援金の違い

カナダ:国のCCB(Canada Child Benefit)+州のBCFB(BC Family Benefit)
所得連動型で連邦所得税を財源としていて,富の再分配による貧困削減が狙い
日本:児童手当
一律給付で事業主拠出金等を財源としていて,少子化を社会全体の問題としているがよく理屈がわからない

国歌,O Canada

ケベックのフランス系によるフランス語の歌らしいけど,英語版とフランス語版で意味がかなり違う。

フランス語では,この国は昔もこれからもまぁ大丈夫だ,みたいな意味だけど,
英語だと,我々は愛国心をもってこの国を守り抜くぞ,みたいな意味に。

フランス語では,何かしらが守ってくれるでしょう,みたいな意味だけど
英語だと,我々は貴方のために守りぬきます,みたいな意味に。

公式併用版では英語の意味を重視して,神様云々の真ん中だけフランス語にしてる。

英語版は何かと政治的らしく,もとの「Ton front est ceint de fleurons glorieux!(カナダの顔には栄光の冠が輝いているよ)」を「True patriot love thou dost in us command(あなたが真の愛国を私たちの内に呼び起こす)」みたいな物騒な詩にしたばかりに,ことあるたびに文句が出て変更され,そんなコロコロ変えたらこの歌の元で死んでいった人らに失礼ちゃうんか,とか言われてるよう。

これはこれとして置いておいて,政治色を抜き取って,こうしたらいいという一案があったのでここに紹介するよ。

そんなバナナ。